【コラム:Bespoke、MTOの特徴】第3回 マテリアル

シリーズのコラム、第3回は当店で使用しているマテリアルについてご紹介します。

第3回 マテリアル

オーダーの醍醐味の一つは、多種多様な革の見本から自分の気に入ったものを選んだり、デザインや仕様を相談していくプロセスにあります。

スワッチから気に入ったものを選ぶ醍醐味


初めてオーダーされるお客様は比較的ベーシックはデザインやマテリアルをお選び頂くことが多いのですが、2足目、3足目と回数を重ねていくと次第にオリジナリティを反映したり、旅行など特定のシーンを想定した靴についてご相談いただくこともあります。

スワッチ(革の見本帳)を見ながら、アッパーはどの革にしようかとお悩みになるお客様は少なくありません。一旦 候補をいくつか決めて数日間ご検討、というケースもあります。革選びは悩ましいですがとても楽しいことでもありますので、じっくりとお選びいただきたいと思います。

当店でご提案することが多いのは、イングリッシュグレイン、それからブリティッシュワックスドカーフなどです。ハウススタイルであるカントリーを象徴するそれらの革は履き込むごとに味わいを増していきます。さらには、防水性や強度といった快適に長くご愛用いただくための要素も満たしているという魅力も挙げることができると思います。

ドレスシューズの王道であるシンプルなオックスフォードのデザインにあえてワックスドカーフを使用し、良く見るとカントリーテイストを感じさせるという既製品にはないひねりを効かせたセレクトというのも面白いと思います。

ワックスドカーフとオックスフォードの組み合わせ

または、革の質感はあえて抑えてカーフを選択し、ハンドステッチのエプロンフロント(U-Tip)というデザインも良いと思います。どこか主張するならどこかは引き算すると全体的にまとまり、飽きもこないのでおすすめです。


ハンドステッチが一つの主張。シンプルなエプロンフロント

さらに、それぞれの革の持つ背景や特徴も選ぶ上で重要なポイントです。例えば、イングリッシュグレインはクロム鞣しの特性を活かし、水に強い特徴や肉厚かつ柔らかな履き心地という特徴があります。ブリティッシュワックスドカーフは乗馬ブーツやハンティングブーツに使用されており、防水性を施すためにフレッシュサイド(革の裏側)を表側に使い、オイルやワックスを浸透させて作られる丈夫な革です。繊維が毛羽立ってきたり、水に濡れた後は鹿の骨などを使って擦って表面を整えるという一風変わったメンテナンス方法が用いられます。こういったストーリーも製作する靴のコンセプトを明確にするのに役立ちます。

ブリティッシュワックスドカーフ。表面の白く浮き出ているものはブルームと呼ばれるロウ成分

他には定番のボックスカーフならドイツのタンナー「ワインハイマー」社、透明感があり色鮮やかなカーフを鞣すのが得意なイタリアの「ゾンタ」社、非常に肌理の細かいスエードで有名なイギリスの「C・F・ステッド」社の銀付きスエードなど、海外のサプライヤーから様々なトップグレードの革を仕入れています。

さて、次はボトム用のマテリアルについてご説明します。

当店のビスポーク及びフルハンドバージョンのMTOでは、インソール、芯材、ウェルト、アウトソール、シャンク、ヒールなどは全てイギリスの老舗タンナー、J & FJ Baker(以下ベイカー)社のオークバークレザーを使用しています。

イギリスから取り寄せているベイカー社のオークバーク

このオークバークは名前の通りオーク=樫の木のタンニンを使って通常よりもずっと長い期間、多くの手間をかけて鞣されています。そのために磨耗しにくく、水にも強い特性を持ち、数十年履くことを想定しているBespokeにとって最適な材料として知られています。


ベイカー社の工場内部(写真提供:J & FJ Baker)

英国をはじめ世界中の名だたるビスポーク工房、高級既成靴メーカーに材料を供給し続けてきたベイカー社。最近ではエルメスのヴォリンカレザーの開発・製品化を手がけたことでも注目されています。実は上で紹介しているブリティッシュワックスドカーフもベイカー社で鞣されている製品なのです。

近年、残念なことにタンナーは環境問題や後継者不足などの問題から次々と廃業に追い込まれています。先日、ドイツのタンナー「J・レンデンバッハ」社もオークバークの製造を終了してしまいました。長い歴史を持ち、優れた革を供給してくれているベイカー社が今後も存続するために、微力ですが当店も継続して仕入れを行っていきたいと考えています。

シリーズでご紹介してきた【コラム:Bespoke、MTOの特徴】は今回で終了となります。最後までご愛読いただきましてありがとうございました。

過去のコラムは以下からご覧になれます。

第1回 ハンドラスティング編

第2回 ハンドウェルティング編 

今後も当サイトやSNSを通じてハンドメイドシューズの魅力や拘りを配信していきますので ご注目いただければ幸いです。