【コラム:Bespoke、MTOの特徴】第2回 ハンドウェルティング

T.Shirakashi Bootmakerの製品(BespokeMTO)の特徴を辿るシリーズ記事の第2回目はボトムメイキングの要、ウェルティングについてです。

前回に引き続き、本記事でもマシンメイドの靴と比較しながら説明していきます。

 

【第2回】ハンドウェルティング

 

靴の基本構造と言える、アッパー・インソール・ウェルト(靴のコバのステッチが見える部分。ベルト状の革)これら3つが糸で縫い合わされ一つになり、足を包むための袋状になる重要な工程。それがウェルティングです。

全て手作業で行うハンドウェルティングの場合は、インソール(中底)の加工段階からグッドイヤーのそれとは大きく異なります。

グッドイヤーウェルト製法は、ファブリック製のリブをインソールの裏側に接着し、それを機械でアッパーやウェルトと縫い合わせるという構造です。

一方でハンドウェルティング(ハンドソーンウェルテッド製法とも呼ばれる)は、肉厚なインソールの底面に彫刻のように凸型を手作業で切り出し、そこに縫い糸を通してアッパーとウェルトを手縫いで取り付けます。


ハンドウェルティング用のインソール。凸部を切り出し、縫い糸を通す穴をあらかじめ空けてあります

 

後者の利点は、リウェルト(ソール交換時にウェルトを縫い直す作業)の際にもダメージが少ないことから強度や寿命の面でも理想的な製法といえます。

さらに、別パーツのリブが無いので屈曲を妨げる要素が少なく、フィラー(コルクやフェルトなど隙間を埋める中物)も少量で済むため、反り返りの良さが特徴となっています。

手前がハンド用、奥がマシン用のインソール。ハンド用の革の厚みはマシン用の2〜3倍あります

 

当工房ではこのハンドウェルティングを製造工程の中で最も重視しており、BespokeもMTOも同じ材料・製法で作業しています。使用する縫い糸(アイリッシュリネンを手で撚り、蜜蝋や松脂などを配合したワックスを浸透させて作った縫い糸)も両者区別することなく同じものを使っています。

この糸も職人の技術と経験を要する靴の品質を左右する重要な材料の一つで、ワックスの配合、アイリッシュリネンのコンディション、撚り方など製造時に判断する要素が多くあります。さらに、季節や気温によってもワックスの浸透率を変えるなど繊細な調整を行っています。

アイリッシュリネンに蜜蝋や松脂が配合されたワックスを浸透させた特製の縫い糸。これも工房内で手作りされています

 

このようにして作った糸を使い、ラスティングした状態の靴にウェルトを縫い付けていきます。糸を素早く引き、インソールに空けた穴とそこを通る糸の摩擦によって糸の表面のワックスが溶けて柔らかくなったその瞬間、梃子の原理を使って糸をしっかりと締めつけるという動作を繰り返します。さらに同じテンションを保つよう姿勢を変えずに一気に縫い上げなくてはなりません。気を抜くと糸目が揃わなくなる=ウェルトが歪む=強度に問題が生じるので特別な集中力を要します。

しっかり一目ずつ緩まないように縫いあげます

 

ウェルティングもマシンでは数十秒で完了するのに対し、ハンドでは一日かかる作業のため朝早くから作業に取り掛かります。万全の体調で臨むために前日は早めに就寝するようにしています。

作業当日、朝の日差しが柔らかく差し込む工房でウェルティングをしながら 縫い糸が擦れる音と溶け出す蜜蝋の匂いに包まれるとき、ハンド全盛期の100年以上前の職人達に挑む気持ちと、お客様のために頑丈な靴を作るという意識がより明確になっていくことに気付きます。

木・革・植物・鉄といった天然素材と対峙しながら、昔から何一つも変わらない作業を淡々と行う。思い返せば修行の際、「自分はいま靴を作っている」そう言い聞かせるのだと教わりました。それは自分が連綿と続く靴職人の鎖輪の一部であるということを自覚し、先人たちに恥じない仕事をするという決意を意味します。一針一針の真剣勝負とも言えるこの作業には特別な意味や感情が込められているのです。


ウェルティングが完了した靴。釘は全て抜いてあります

 

上記のように、とても手間がかかるハンドウェルティング。熟練の経験や技術が反映されたこの製法で作られた靴は快適な履き心地と強度を保ち、数十年という長い期間オーナーの有用な道具となるに違いありません。

しかしながら、巷では海外製の安価なハンドウェルティングの靴も販売されています。中には短時間で縫えるようにピッチが粗くてしてあったり、材料や糸の品質が悪く縫い自体も弱いため、フィッティングが変わりやすく強度も不十分なものもあります。

言わば名前だけのハンドウェルティング。。。このような粗悪なものが世に出回っていることをとても残念に思います。ハンドであるがために人為的な問題により品質が下がる可能性があり、且つ消費者がそれを確認できないのであれば、嘘をつかない機械によるグッドイヤーの方がずっと良いのではないでしょうか。

この記事をご覧になっている皆さんにとって靴を購入する際に上記の内容が参考になることを願っています。 

さて、次回の記事でシリーズのコラムは最終回となります。内容はマテリアルについて解説いたします。どうぞ楽しみにしていてください。